文庫化から長い年月が経ち、すでにクラシックなミステリとして定着していたはずの作品が、なぜ2026年の今、空前のバズを起こしているのか。その引き金となったのは、TikTokやInstagramで展開された「鬱展開ミステリ」の短尺動画レビューだった。クリエイターたちが「読後に確実に気分が重くなるが、ページをめくる手を止められない」と絶叫混じりに語る姿が、タイムラインを駆け巡った。
デジタルネイティブな若者たちにとって、昭和後半から平成初期のジメジメとした日本の夏を背景にした怪異と心理劇は、新鮮な恐怖であり、同時にどこか懐かしい「退廃的な美しさ」として映っている。ただのホラーでもなく、単純な謎解きでもない。心理的な袋小路に追い詰められていく感覚が、タイパ時代と言われる現代において逆に「濃密な読書体験」として熱狂的に迎え入れられている。