大同生命江坂ビルを訪れた人が一様に息をのむのが、1階から上層階へと抜ける広大なアトリウム空間です。ベンジャミンやヤシ類、シダ植物など、数百本規模の生き生きとした植栽が配置され、天井のトップライトから降り注ぐ自然光を浴びています。人工的な造花ではなく、すべて土に根を張った本物の生きた植物で構成されている点が最大の特徴です。
なぜ半世紀以上も前の高度経済成長期末期に、このような贅沢な緑化空間が設計されたのか。その背景には、日本を代表する建築家・黒川紀章が唱えた「共生(Symbiosis)の思想」が存在します。黒川は、都市と自然、内部と外部、歴史と未来という対立する概念を二者択一で切り捨てるのではなく、中間領域を介して融合させる設計理論を提唱しました。
当時の特番インタビューや自著・手記で語られた「都市の中にいかにして自然の呼吸を取り戻すか」という問いへの答えが、まさにこのビルのアトリウムでした。単なる装飾としての緑ではなく、ビル内部に独自の微気候(マイクロクライメイト)を生み出し、外気と遮断されたオフィスワーカーのストレスを和らげる「生態系の一部」として計画されたのです。床面から立ち上がる樹木がガラスカーテンウォール越しに外部へ漏れ出る視覚的演出は、道行く人々にも緑の潤いを与える「都市へのギフト」として機能しています。