潮が引いた浅瀬に、膝まで浸かりながら腰をかがめる一団がいる。彼らが泥の中に一本ずつ手作業で差し込んでいるのは、絶滅の危機に瀕していた海草、アマモの幼苗だ。
「海のゆりかご」と呼ばれるアマモ場。かつて沿岸をびっしりと覆っていた緑の絨毯は、沿岸開発と水温上昇によって一時期、壊滅的な打撃を受けた。稚魚が隠れる場所を失い、アオリイカの産卵床が消え、海は急速に透明度だけを残した砂漠へと変わり果てていた。この危機に立ち上がったのは、漁師だけではない。地元の小中学生、環境NGO、そして霧島に拠点を構える民間企業がスクラムを組んだ。
2026年春、取り組みは目に見える結実を見せ始めている。潜水調査の水中カメラが捉えたのは、青く揺れるアマモの葉陰に群れる無数の稚魚たちだ。二酸化炭素を海底に閉じ込める「ブルーカーボン」としての価値も国際的に注目され、企業からの支援資金が直接現場に落ちる仕組みも軌道に乗りつつある。泥にまみれた手作業が、海底の砂漠を確実に森へと戻している。