5月の別名として真っ先に挙がる「皐月」。園芸植物として親しまれる「サツキ(サツキツツジ)」が咲く時期だから名付けられたと思われがちですが、順序は正反対です。「皐月の時期に咲く花だからサツキと命名された」というのが植物学および国語学における明確な事実です。
では、なぜ5月を「さつき」と呼ぶようになったのか。国立国語研究所の語源資料や日本古典文学の注釈書が示す決定的な根拠は、古代日本の基幹産業である稲作にあります。
5月は田んぼに苗を植え付ける最重要の時期でした。この苗を指す「早苗(さなえ)」を植える月であることから、もともとは「早苗月(さなへつき)」と呼ばれていました。この「さなへつき」の語頭と語尾が縮まり、転訛(てんか)して「さつき」へと変化した説が定説となっています。
民俗学の視点からさらに深掘りすると、「さ」という一音そのものに神聖な意味が宿っています。日本の農耕信仰において、「さ」は田の神(穀霊)を指す古語です。「さ」の神が宿る依代(よりしろ)となる苗だから「早苗(さなえ)」、「さ」の神を迎えて田植えをする女性を「早乙女(さおとめ)」、田植えの時期を「皐月(さつき)」と呼びました。
また、「皐」という漢字自体の成り立ちも見逃せません。「皐」の字には「水辺・沢」あるいは「神に捧げる清らかな供物」といった意味が含まれます。水田に清らかな水を張り、神を迎えて早苗を手向ける月の文字として、当時の知識層が「皐月」の表記を当てたと考えられています。