かつて鴨川会長から提示された「人間をやめる覚悟」、つまり怪物の世界へ飛び込むための「一線」を越えることができるのか。これこそが、幕之内一歩の現役復帰における最大のテーマだ。現役時代の彼は、愚直なまでに愚直なインファイターであり、相手のパンチを被弾しながら前進するスタイルが肉体を蝕んでいた。
しかし、セコンド経験を通じてボクシングの構造を理論的に解明した今の彼は、以前のボクサーとは根本的に異なる。科学的アプローチと徹底したトレーニングにより、ノーモーションでの打撃や死角からの攻撃など、技術的領域でも格段の進化を遂げている。スポーツ漫画における「主人公のブランク期間」は、単なる休止ではなく、怪物へと脱皮するための不可欠な充電期間だったのだ。