事件の展開を時系列で整理すると、積水ハウス側には取引を止めるチャンスが幾度となく存在していたことが分かります。それらの警告サインがなぜすべて握りつぶされたのか、タイムラインから浮き彫りになります。
【2017年3月〜4月:接触とスピード契約】
ブローカーを通じて積水ハウスに海喜館の売却情報が持ち込まれます。現地での本人確認が行われましたが、犯人側は「本人が病弱で人嫌い」「立ち退きトラブルを恐れている」などの理由をつけて敷地内や建物内への立ち入りを拒否。路上や近隣の喫茶店での形式的な面談のみで、わずか1ヶ月足らずの4月24日に売買契約が締結されました。
【2017年4月下旬〜5月中旬:届き続けた「本物の所有者」からの警告】
契約直後から、積水ハウス本社や担当部署には異例の事態が発生していました。本物の元女将側から「私は土地を売っていない」「提示されている書類はすべて偽造である」とする内容証明郵便や警告文書が計4回にわたって送達されていたのです。しかし、担当責任者らはこれを「取引を横取りしようとするライバル会社や悪質な地上げ屋による妨害工作」と決めつけ、法務部門やリスク管理部門への正式な共有を怠りました。
【2017年6月1日:決済強行と登記却下】
警告を完全に無視した積水ハウスは、品川の銀行支店で最終決済を強行。偽造書類をもとに東京法務局品川出張所へ所有権移転登記を申請しました。しかし数日後の6月6日、法務局から「提出書類に重大な偽造がある」として登記申請が正式に却下され、担当者たちは初めて騙された事実に直面することになります。その時にはすでに、支払った数十億円の資金は多数のペーパーカンパニーや現金化ルートを通じて分散・逃走されていました。