本書が現代の読者に与える最大の衝撃は、「悲劇は悪意からではなく、ミクロな合理性の積み重ねから生まれる」という事実である。当時の官僚や政治家、軍人たちは、それぞれの持ち場で自らの組織や立場を守るために最善の「合理的判断」を下していた。
しかし、局所的な合理性を寄せ集めた結果生まれたのは、全体として壊滅的な非合理であった。集団思考の陥穽、撤退ラインの設定不全、対話の拒絶。これらは80年前の日本特有の現象ではない。現代の企業経営、行政機構、さらには国際政治の舞台においても、全く同じ人間的弱さと組織的病理が繰り返されている。私たちが学ぶべき教訓は、自らの「正義」や「合理性」を疑う客観的視点を持ち続けることの難しさと重要性である。