前述の都市伝説がいかに突飛な創作であるかは、現存する歴史資料をたどれば明白になります。『君が代』の歌詞の原典は、平安時代前期(905年頃)に編纂された勅撰和歌集『古今和歌集』巻七「賀歌(がのうた)」の筆頭に収められた一首です。
当時の表記は「我が君は 千代に八千代に さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで」となっており、作者は特定されていない「読人しらず」として記録されています。
現代語訳を行うと、そのメッセージは極めてシンプルで温かな祈りに満ちています。
【現代語訳】
「あなた(大切な我が君)の命と繁栄が、千年も八千年も、ずっと長く続きますように。小さな小石が長い歳月をかけて寄り集まり、大きな岩となって、さらにその上に苔が生い茂るほど永遠に。」
ここで使われている「さざれ石」とは、炭酸カルシウムなどによって小さな石が年月を経て凝結し、巨大な岩塊へと成長する天然の「石灰質角礫岩(せっかいしつかくれきがん)」を指します。気の遠くなるような時間の経過を具象化した優美な比喩表現であり、生贄や呪いといった陰惨な要素は一切含まれていません。
また、成立当時の「君(きみ)」という言葉は、天皇のみを指す言葉ではありませんでした。敬愛する主君、父や母、愛する恋人、あるいは宴席の主人など、「自分にとって大切な相手」全般に向けた敬称として広く使われていたことが国文学の研究で立証されています。