堕姫の最大の武器であり代名詞とも言えるのが、自らの体を柔軟に変形・分離させる血鬼術「帯」だ。この帯は単なる攻撃手段にとどまらない。吉原の街中に縦横無尽に張り巡らされ、喰らうべき人間を傷つけることなく生きたまま収納・保存する異能の倉庫としても機能していた。
実は、この血鬼術の性質自体が彼女の人間時代の強烈な原体験に起因している。幼少期の名は「梅(うめ)」。吉原の最下層である羅生門河岸で生まれた彼女は、あまりの美貌ゆえに周囲から重宝される一方で、常に他者から搾取され脅かされる恐怖と隣り合わせだった。自身の大切なものを隠し、保持し、誰にも奪わせないという執着が、変幻自在の帯という術へ昇華されたのだ。
さらに、彼女の容姿への異烈なこだわりも見逃せない。「美しいものは食べる、醜いものは要らない」という極端な美醜の基準は、鬼舞辻無惨からの寵愛を維持するための装飾であると同時に、美しさだけが自身の生存を保障した人間時代の悲しい防衛本能でもあった。