表層的な類似性に目を奪われがちだが、二者の内面と行動原理には決定的な断絶がある。ばいきんまんはどこまでも利己的だ。おいしい食べ物を奪いたい、アンパンマンを困らせたいという極めて個人的かつ無邪気な欲望によって駆動している。そこには地球規模のイデオロギーなど微塵も存在しない。
しかし、ワクチンマンは違う。「母なる地球を汚す人間どもを抹殺する」という、環境主義的で極度に独善的な大義名分を背負って顕現した。自らを正義の代行者と信じて疑わない狂信性。これは現代のディザスター映画やポストアポカリプス作品のヴィランが抱く典型的な動機だ。
ばいきんまんの「悪」は共存可能な愛嬌を伴うが、ワクチンマンの「正義」は人類絶滅を前提とした絶対悪として機能する。この思想的反転の鋭さこそ、ONE氏のシナリオテリングの真骨頂である。