福井県鯖江市。この地名を聞いて、眼鏡を連想する人は少なくない。国内生産される眼鏡フレームの約9割がこの小さな町で作られている。今泉悠が2005年にこの地を訪れたのは、偶然ではなく必然だった。
鯖江の眼鏡産業は100年以上の歴史を持つ。冬季の農閑期の副業として始まった眼鏡づくりは、やがて精密な加工技術と職人の集積地へと発展した。今泉はここで、フレームの削り出しから磨き、組み立てまで、すべての工程を一から学んだ。
職人としての基礎を築くには時間がかかる。素材の特性を理解し、わずかな力加減の違いで仕上がりが変わることを体で覚える。今泉はこの修業期間を通じて、眼鏡づくりが単なる製造ではなく、人の顔に寄り添う繊細な芸術であることを学んだ。