インターネット上のQ&AサイトやSNSで定期的に浮上するのが、「おはようございますは同僚や目下にかける労いの言葉が語源だから、上司や取引先に使うのはマナー違反ではないか」という言説です。しかし、国語学および礼儀作法の観点から検証すると、この主張は明らかな誤解に基づいています。
「おはようございます」の語源は、江戸時代の歌舞伎界に遡ります。芝居の開演前に楽屋入りして準備を進める役者や裏方に対して、周囲の者が「お早いお着きでございます」「お早くからご苦労様でございます」と声をかけ、相手の労苦をねぎらい敬意を示したことが始まりとされています。
形容詞「早い」の連用形「早く」がウ音便化して「早う」となり、接頭辞「お」と丁寧の補助動詞「ございます」が組み合わさった構成です。文法上、完全な丁寧表現(敬語)として成立しており、目上の人に対して敬意を払って使用できる正しい挨拶です。「目上に失礼」という誤説は、「労い=上から目線」という短絡的な混同から派生した都市伝説に過ぎません。
なお、公用文や一般的なビジネス文書における表記ルールでは、漢字の「お早うございます」よりも、ひらがなの「おはようございます」と表記するのが通例です。文化庁の常用漢字表においても「早」を「よう」と読む訓令はなく、公的文書やビジネスマナーの標準テキストではひらがな表記が推奨されています。