1980年代、フランス北部の都市リールでひとりの職人が伝統菓子の再解釈に挑んだ。創業者のフレデリック・ヴォーカン(Frédéric Vaucamps)である。彼はフランドル地方に古くから伝わる素朴なメレンゲ菓子に着目し、独自のレシピによってかつてないほど繊細でエアリーな食感へと昇華させた。
当時、どっしりとしたバタークリームが主流だったパティスリー業界において、彼の試みは極めて大胆だった。フレデリック・ヴォーカンが追求したのは、口に含んだ瞬間にメレンゲがホロリと崩れ、厳選されたホイップクリームと溶け合う究極のバランス。過度な甘さを削ぎ落とし、素材そのものの風味を引き立てる手法は、瞬く間にヨーロッパ全土で絶賛を浴びることとなった。
オー・メルヴェイユ・ドゥ・フレッド(Aux Merveilleux de Fred)と名付けられたブティックは、単なる菓子店ではない。18世紀のフランス宮廷文化「メルヴェイユーズ(素晴らしい貴婦人たち)」のエレガンスを空間全体で体現し、訪れる者を非日常の美食体験へと誘う。