1980年、引退と同時に出版された自伝・ノンフィクション『蒼い時』の中で、百恵は実父との確執を包み隠さず告白した。彼女は実父に対して手切れ金ともいえる巨額の資金を支払い、法的な関係を完全に断ち切る道を選んだ。「私には父はいない」という強い意思表示であった。
その一方で、ドラマ『赤い疑惑』などで長年共演した俳優の宇津井健を、彼女は実の父親以上に慕っていた。宇津井もまた、複雑な家庭事情を抱える百恵を温かく見守り、私生活でも父親代わりとして親身に相談に乗っていた。彼女が三浦友和と結ばれた歴史的挙式において、仲人を務めたのが宇津井健夫妻であったことは有名な話だ。歪んだ実父との絆を自ら断ち切った彼女は、仕事を通じて本物の「父性」を手に入れたのだった。