漫画の誇張表現のように思えるこのセリフですが、近代科学史・医学史の観点から検証すると極めて正確な時代描写であることが分かります。『ジョジョ第2部』の時代設定である1938〜1939年頃、ドイツの科学・医療・製薬水準は文字通り世界最高峰の位置にありました。
19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ドイツは近代医学のパラダイムシフトを主導しました。結核菌やコレラ菌を発見したロベルト・コッホ(1905年ノーベル生理学・医学賞)、化学療法の父と呼ばれ梅毒の特効薬サルバルサンを開発したパウル・エールリヒ(1908年同賞)、そしてX線を発見したヴィルヘルム・レントゲン(1901年ノーベル物理学賞)など、現代医療の基盤を築いた巨人が次々とドイツ語圏から誕生しています。
製薬分野においても、バイエル社が1897年にアスピリン(アセチルサリチル酸)の化学合成に成功し、世界初の本格的な合成医薬品として市場を独占。当時のドイツ化学・製薬産業はカルテル組織「IGファルベン」を形成し、合成染料や医薬品の世界シェアの過半数を掌握していました。
この圧倒的な実績は日本にも直接的な影響を及ぼしています。明治維新期、明治政府は日本の近代医学の手本としてイギリスやオランダではなくドイツ医学の採用を国策として決定しました(1869年)。東京大学医学部をはじめとする全国の医学校でドイツ人教官が教鞭を執り、昭和後期に至るまで日本の医師がカルテ(Karte)やクランケ(Kranke)、オペ(Operation)といったドイツ語を公用語のように書き綴っていたのは、まさに「ドイツの医学が世界一」であった時代の遺産にほかなりません。