ここからは物語の核心に触れるネタバレと、読者を圧倒的な涙に包み込んだ結末について解説します。
連載を抱え、売れっ子漫画家としての階段を駆け上がっていた明子のもとに、日高先生が末期の肺がんに侵されているという残酷な報せが届きます。余命わずかと宣告されながらも、病院のベッドや教室で生徒たちに絵を教え続けようとする先生の姿に、明子は連載の激務と東京・宮崎の往復を繰り返しながら必死に寄り添います。
最終回(全5巻)に向けて描かれる別れのプロセスは、まさに慟哭の連続です。病魔に蝕まれ、声が出なくなってもなお、先生は震える手でホワイトボードに言葉を書き殴り、明子に「描け」と伝え続けます。先生が欲しかったのは高価な恩返しでも名声でもなく、ただ「教え子が絵を描き続ける姿」そのものでした。先生の死後、遺品の中から見つかった明子の掲載誌の山や切り抜きを目にしたとき、主人公の、そして読者の感情は限界を迎えます。
タイトルの『斯く斯く然々(かくかくしかじか)』という意味は、本来「これこれこういう事情で」と詳細を端折る言葉です。明子は先生に対し、「東京で忙しくて」「仕事が立て込んでいて」と、数々の言い訳を『かくかくしかじかで…』と誤魔化してきました。その省略された言葉の裏にあったのは、果てしない甘えと、今となっては二度と届かない謝罪の念でした。このタイトルの真意に気付かされるラストシーンは、漫画史に残る名場面として語り継がれています。