鴨川のせせらぎに面して建つ先斗町歌舞練場は、昭和2年(1927年)に完成しました。かつて江戸時代初期に鴨川の護岸工事によって生まれた先斗町は、茶屋や旅籠が集まる歓楽街として発展し、明治期以降は洗練された芸妓・舞妓が技を競う格式高い花街へと昇華しました。その芸妓連の稽古場および晴れの発表の場として建設されたのが現在の歌舞練場です。
設計を手がけたのは、旧東京中央郵便局や旧大阪中央郵便局などを手がけ、日本の近代建築史に不朽の足跡を残した吉田鉄郎です。外観はスクラッチタイルで覆われ、昭和初期に流行した表現主義やアール・デコの手法を取り入れつつ、東洋の意匠が巧みに融合されています。
屋根の頂部には、中国の舞楽面である「蘭陵王(らんりょうおう)」の鬼瓦状レリーフが鴨川を見下ろすように据え付けられており、劇場の守護と芸能の上達を祈願するシンボルとなっています。劇場の内部空間も、和風の格天井と洋風のアーチ構造が同居する独特の構造美を誇り、国の登録有形文化財には指定されていないものの、京都市の歴史的景観を形成する重要建築物として極めて高く評価されています。