人類が企てた火星地球化計画(テラフォーミング)において、過酷な極低温と二酸化炭素の環境を改善するために選ばれたのが「苔」と「ゴキブリ」でした。太陽光を効率よく吸収して地表を温める黒い体色と、極限状態でも死滅しない驚異的な生命力が選定理由でしたが、約500年の歳月は人類の計算を根底から狂わせることになります。
テラフォーマーの生物学的モデルとなっているのは、地球上でも身近な害虫であるワモンゴキブリやクロゴキブリです。本来であれば数センチに満たない昆虫が、なぜ約2メートル超の筋骨隆々な人型直立二足歩行へと急激な変態を遂げたのか。その表向きの理由は、火星地表に降り注ぐ強烈な宇宙放射線によるDNAの超高速変異と、天敵不在による急激な世代交代の加速にあります。
しかし、自然選択説だけでは説明がつかない点が「人間の骨格や筋肉構造を忠実に模倣している」という事実です。作中でも言及されている通り、昆虫の外骨格構造を内部に圧縮しつつ、人間のような内骨格と筋肉のバネを併せ持つハイブリッドボディは、意図的な遺伝子改変が施された証左でもありました。