「なぜ3月がMarchと呼ばれるのか」という疑問を掘り下げると、西洋の暦法を形作った古代ローマの壮大な歴史に突き当たります。March語源の原点は、ローマ神話に登場する戦と農業を司る最高神軍神マルス(Mars)です。ラテン語では「Martius(マルスの月)」と呼ばれており、これがフランス語などを経由して中英語の「March」へと変化しました。
ここで多くの人が「なぜ年の初めでもない3月に、最高神マルスの名が冠されたのか」という疑問を抱きます。オックスフォード大学などの天文学史・暦法史資料によると、現在の太陽暦(グレゴリオ暦)の母体となった紀元前8世紀の「ロムルス暦(古代ローマ暦)」において、3月こそが「1年の始まり(第1月)」でした。
厳しい冬の間、農耕民族であり軍事国家でもあった古代ローマの人々は、雪と寒さによって戦闘も農作業も中断せざるを得ませんでした。やがて春の気配が訪れ、草木が芽吹き大地が乾き始める3月になると、凍結していた軍事遠征(行軍)が再開され、農作業が本格的に始動します。新たな年の幕開けに際し、国家の守護神であり戦勝を約束するマルス神に祈りを捧げたことから、この月が「Martius」と命名されたのです。
紀元前46年にユリウス・カエサルが暦を改編(ユリウス暦)し、現在の1月にあたるJanuarius(ヤヌスの月)を年の初めに定めたため、マルスの月は「第3の月」へとスライドしました。しかし、春の到来とともに兵士たちが大地を踏みしめて前進を開始した記憶は、今なお「March」という名の中に脈々と息づいています。