アゲハチョウの幼虫を観察していて最も驚かされるのが、成長に伴うドラマチックな外見の変化です。卵から孵化したばかりの1齢幼虫から4齢幼虫までは、黒褐色と白のまだら模様をしており、一見すると「鳥の糞」にしか見えない姿をしています。これは鳥類などの天敵から身を隠すための高度な「擬態(隠蔽擬態)」です。葉の上にじっと留まっているだけで、捕食者は糞が付着していると錯覚して見逃してしまいます。
ところが、4回目の脱皮を経て5齢幼虫(終齢幼虫)になると、その姿は一変。白黒のトゲトゲした質感から、つるりとした鮮やかな黄緑色の体へと劇的な変貌を遂げます。終齢幼虫になるとサイズが数倍に巨大化するため、もはや鳥の糞サイズでは誤魔化しが利きません。そこで今度は、周囲の青葉に溶け込む「保護色」へと戦略を切り替えるのです。
胸部にある大きな「目玉模様(眼状紋)」も巧妙な防衛策のひとつです。本物の目は頭部の下側にごく小さく存在していますが、天敵である小鳥に対して「ヘビの頭部」を連想させて威嚇する効果を持っています。
さらに危険が迫ると、頭部と胸部の間から鮮やかなオレンジ色または黄色の「臭角(しゅうかく)」と呼ばれる角を勢いよく突き出します。この臭角からは、柑橘類の精油成分が凝縮されたような強烈な酸味と異臭が放たれます。毒性はありませんが、アリや鳥を瞬時に撃退する強力な化学兵器として機能しています。