『Feeling Good』というフレーズは、日常会話では「体調が良い」「気分爽快だ」というライトな意味で使われます。しかし、音楽史におけるこの曲の立ち位置を紐解くと、「過酷な抑圧、差別、絶望の暗闇から抜け出し、ついに自らの尊厳と主権を取り戻した瞬間の歓喜」という重厚なスラング的ニュアンスを帯びています。
この楽曲はもともと、1964年にイギリスの作家アンソニー・ニューリーとレスリー・ブリッカッスが制作したミュージカル『グリースペイントの雄叫び、群衆の匂い(The Roar of the Greasepaint – The Smell of the Crowd)』のために書き下ろされた劇中歌でした。劇中では、社会の上流階級を象徴するキャラクター「サー(Sir)」と、搾取される最下層の労働者を象徴する「コック(Cocky)」が理不尽なゲームを繰り広げます。抑圧され続けた弱者「コック」が、理不尽なルールを打破して初めて勝利を収めた瞬間に高らかに歌い上げるのが、この『Feeling Good』でした。
そして1965年、アメリカのジャズシンガーであり公民権運動の闘士でもあったニーナ・シモンがアルバム『I Put a Spell on You』で本曲をカバーしたことで、楽曲の持つ意味は劇的な変貌を遂げます。当時アメリカ南部ではジム・クロウ法(人種隔離政策)が敷かれ、アフリカ系アメリカ人は基本的人権すら脅かされていました。ニーナ・シモンは、自著や当時のインタビューで「黒人としての誇りと、自由への渇望を表現しない音楽に価値はない」と激しく語っています。彼女がアカペラに近い導入部から絞り出すように歌い始める「Birds flying high...」は、単なる自然賛歌ではなく、「空の鳥や川の魚のように、なぜ人間である私たちが自由に生きられないのか」という痛烈なプロテスト(抗議)と、勝利への決意だったのです。