世間が最も注目したのは、「なぜ愛している男を自らの手で殺害し、遺体を損壊するに至ったのか」という阿部定事件の経緯と動機でした。金品目当ての犯行や怨恨による復讐ではなく、純粋な独占欲と別離への恐怖が引き起こした凶行であった点は、当時の司法関係者や精神科医をも驚嘆させました。
公判記録に残る阿部定事件の裁判における供述調書には、定の生々しくも純化された心理が次のように記されています。
「吉さんの首を絞めたのは、吉さんを殺したかったからではありません。吉さんが生きていれば、どうしても他の女や元の家庭に帰ってしまう。吉さんを永遠に私だけのものにするには、殺すしかありませんでした」
精神分析的な見地から見れば、これは典型的な「境界性パーソナリティ構造」と「重度の共依存」が重なり合った結果生じた悲劇と解釈されます。吉蔵自身もまた、定の激しい執着を拒絶するどころか、首を絞め合って快感を得る危険な行為を自ら要求するなど、二人の関係は死を前提とした自己破壊的な閉鎖回路へと向かっていました。定にとって局部を持ち去る行為は、愛する男性の象徴を永遠に自己と一体化させるための儀式的な意味を持っていたと指摘されています。