普段はヘタレな我妻善逸が「実は一番優しい」と絶賛される決定的な理由として、真っ先に挙げられるのがコミックス第3巻(アニメ第13話)に描かれた鼓屋敷の戦い直後の箱守りシーンです。
屋敷の外で嘴平伊之助と対峙した際、善逸は並外れた聴覚により、炭治郎が背負う木箱の中に「鬼がいる」ことを完全に察知していました。鬼殺隊士として鬼は討伐すべき対象であり、何より極度の怖がりである善逸にとって、鬼の気配がする箱は恐怖そのものです。しかし、善逸は伊之助による日輪刀の連打や激しい殴打を全身に浴びて血まみれになりながらも、決して箱を手放しませんでした。
その行動原理は極めて明快でした。炭治郎から事前に「これは命よりも大事なものだ」と告げられていたからです。善逸は後に炭治郎に対し、「お前が命より大事にしているものだから、絶対に理由があるはずだ」と語っています。鬼殺隊の規律や常識よりも、出会ったばかりの仲間の心情を無条件で信じ切る選択を下したのです。自らの生命危機に直面しながら他人の大切なものを守り抜く自己犠牲の姿勢は、彼が単なる臆病者ではないことを証明した決定的瞬間でした。