綾辻ミステリの真骨頂といえば、読者の先入観を鮮やかに裏切る叙述トリックです。本作では、シリーズ最大規模のスケールで2つの決定的な仕掛けが施されています。
第1の仕掛けは、語り手である「私(中也)」の真の正体です。読者は物語の大部分において、彼を「玄児の友人である若き大学生」として認識させられます。しかし、物語の結末において、「私」が過ごした暗黒館での体験は過去の回想であり、その正体が若き日の鹿谷門実(本名:島田潔)であったことが判明します。この仕掛けにより、本作は館シリーズ全体のミッシングリンクを埋める超重要作へと変貌を遂げます。
第2の仕掛けは、中村青司が設計した暗黒館の空間構造そのものを利用した盲点です。「惑いの塔」と「影の塔」の対称性、湖の地形、鏡像関係を利用した移動経路など、建築物自体が巨大な錯覚装置として機能しており、物理的密室と心理的盲点が見事に融合したトリックが完成しています。