ネット上の言説において「オランダやカナダに行けば外国人も安楽死できる」といった重大な誤認が散見されます。報道各社の現地取材データや各国の保健当局が公開する実施要項を検証すると、厳然たる事実が浮かび上がります。スイス以外のほぼ全ての安楽死合法国は、自国民または永住権等の公的医療保険加入者に限定して制度を運用しています。
例えば、積極的安楽死のパイオニアであるオランダでは、適用基準として「耐え難く改善の見込みがない苦痛」だけでなく、「主治医と患者の間に十分な時間をかけた意思疎通と相互理解」が法的に義務付けられています。言葉の壁があり、カルテの経過追跡もできない短期滞在の外国人に対して、オランダの医師が致死薬を処方・投与することは制度上不可能です。
また、近年その適用範囲の広さから国際的な注目を集めるカナダの「MAID(Medical Assistance in Dying)制度」においても、連邦法によって「カナダの公的医療保険の受給資格を有すること」が絶対条件として明記されています。医療ツーリズムによる安楽死ツアーの流入を防ぐため、国境を跨いだ申請は厳格に遮断されているのが国際標準の姿です。
結果として、母国に安楽死法が存在しない国に住む人々が、合法的に最期を迎えるための選択肢として頼らざるを得ないのがスイスという構図が固定化しています。