本作の圧倒的な説得力はどこから生まれているのか。東宝をはじめとするメジャー配給各社がひしめく日本映画界において、日本映画製作者連盟の統計を見ても近年稀に見る息の長い支持を獲得している背景には、徹底した現場のクラフトマンシップがある。
関係者への独自取材によって明らかになったのは、現場で行われていた徹底的な「台本崩し」の作業だ。予定調和なセリフ回しは現場で次々と削ぎ落とされ、役者陣の生身の呼吸や、居心地の悪さから生じる視線の泳ぎといった即興的な要素が意図的に残された。小道具一つをとっても、主人公の部屋に置かれた読みかけの本の折り目、使い古されたマグカップの茶渋に至るまで、生活者のリアルが冷徹なまでの精度で配置されている。