八代亜紀の28枚目のシングルとして1979年(昭和54年)5月25日に発売された『舟唄』。当時の八代亜紀といえば、『なみだ恋』や『愛の終着駅』などの大ヒットにより、切ない女心をハスキーボイスで歌い上げる「女心演歌の頂点」として不動の地位を築いていました。
そこに一石を投じたのが、当代随一の作詞家である阿久悠でした。阿久は「八代亜紀という圧倒的な表現者に、あえて無骨な男の哀愁を歌わせたらどうなるか」という逆転の発想を抱きます。女の情念ではなく、北の寒村でひとり酒を煽る男の孤独を描く——演歌界の常識を覆すこの挑戦的なプロットが、『舟唄』の出発点となりました。
作曲を担当した浜圭介は、阿久から届いた歌詞に衝撃を受け、神奈川県三浦半島発祥の労働歌・民謡である「ダンチョネ節」のフレーズを劇的に組み込む構成を考案します。静けさに満ちた語り口から、サビで一気に感情が爆発するダイナミックなメロディラインは、こうして奇跡的な融合を果たしました。