手紙や送付状では礼儀正しさの象徴である「拝啓・敬具」ですが、通常のビジネスメール本文に記載するのは推奨されません。マナー講師やビジネス実務の現場において、メールでの頭語・結語の使用がNGとされる理由は主に3点あります。
第1の理由は、メールというツールの特性(迅速性と可読性)との矛盾です。ビジネスメールは用件を素早く把握し、円滑に意思疎通を図るための連絡手段です。手紙の定型文である「拝啓+時候の挨拶」を冒頭に挿入すると、受信者が本文の要点に到達するまでの認知負荷が増し、要件の把握を遅らせてしまいます。
第2の理由は、形式の不完全性によるマナー崩壊にあります。「拝啓」を用いる場合、手紙の正式な作法として「時候の挨拶」とセットで用い、末尾は「敬具」で締めるのが厳格な文法ルールです。しかし、メールで「拝啓」とだけ書き、時候の挨拶を省いてそのまま用件に入ると、手紙のプロトコルとしても中途半端な形になり、かえって教養を疑われるリスクが生じます。
第3の理由は、メールにはメール固有の標準フォーマットが確立されているためです。現在のビジネスコミュニケーションでは、冒頭に「相手の会社名・氏名」、続けて「いつも大変お世話になっております。〇〇社の△△です」と名乗り、末尾を「よろしくお願い申し上げます」などの結びの挨拶で終えるのが世界標準のビジネスマナーとして定着しています。
ただし、例外として「社長交代の挨拶状」や「事務所移転のお知らせ」などを書面形式のPDFファイルとしてメール添付する場合や、慶弔の公式案内文をメール本文で格調高く送る特例においては、伝統的な拝啓・敬具の書式が用いられることもあります。