全国のスーパーや定食屋で目にする「さつま汁」の表記を見て、「さつまいもが入っているからさつま汁なのだろう」と解釈している人は全体の約7割にのぼると推計されます。しかし、農林水産省が選定する郷土料理の公式記録や鹿児島県下の郷土史料を紐解くと、その発祥は芋ではなく、まったく別の場所にありました。
さつま汁発祥の経緯と郷土料理の歴史を辿ると、江戸時代の薩摩藩における武士の鍛錬法であった「闘鶏(とうけい)」に行き着きます。気性の荒い薩摩鶏を戦わせ、士気を鼓舞した武士たちが、負けた鶏をその場で捌き、季節の根菜とともに大きな鍋で豪快に煮込んで食べたのが始まりとされています。つまり、薩摩汁の「さつま」とは薩摩芋のことではなく、「薩摩藩(薩摩国)」そのものを指しているのです。
ここで持ち上がるのが、さつま汁鶏肉と豚肉どっちが本物か真相という論争です。現代のレシピ本や一部の給食では豚肉が使われる例も見受けられますが、食文化の源流に基づけば「鶏肉」こそが揺るぎない本物です。鹿児島は黒豚の名産地としても名高いものの、郷土の儀式や祝いの席、出陣の景気づけとして受け継がれてきた伝統さつま汁の骨格は、あくまで骨付きの鶏肉や引き締まった肉質の鶏にあります。豚肉を用いたものは調理分類上「豚汁のさつまいもアレンジ」と呼ぶのが正確であり、本場の味を追求するならば鶏肉の選択が絶対条件となります。