二人の関係は、決して平坦なものではなかった。藤圭子の晩年は精神的な不安定さも報じられ、母娘の間には一定の距離があったとされる。2013年の悲劇的な別れの後、宇多田ヒカルは一時的に音楽活動を休止した。
しかし、活動再開後のアルバム『Fantôme』で見せた彼女の音楽は、母への強烈なレクイエム(鎮魂歌)だった。「花束を君に」や「真夏の通り雨」といった楽曲には、母を失った喪失感と、それを受け入れて生きていく覚悟が満ちている。葛藤を乗り越え、音楽を通じて母と和解していくプロセスこそが、宇多田ヒカルの芸術性をさらに高めたと言える。