猿橋勝子は自らの研究生活を通じて、女性研究者が直面する構造的な差別や不遇を痛感していました。「女性には能力がないのではなく、機会と正当な評価が与えられていないだけだ」という強い危機感から、1958年には「日本女性科学者の会」を設立。1980年には日本学術会議で女性初の会員に選出される快挙を成し遂げます。
そして1980年、気象研究所地球化学研究部長を定年退官する際、自らの退職金や蓄えを投じて「女性科学者に明るい未来をある会」を設立し、創設したのが「猿橋賞(Saruhashi Prize)」です。
「自然科学の分野で顕著な研究業績を収めた50歳未満の女性科学者」を対象に毎年1名に贈られるこの賞は、日本の理系界における最高峰の登竜門として定着しています。
【主な猿橋賞・歴代受賞者と研究分野の例】
- 相馬芳枝 博士(第1回・1981年):高圧・触媒化学(有機合成反応の開拓)
- 米沢富美子 博士(第4回・1984年):理論物理学(非晶質半導体の電子状態理論)
- 黒田玲子 博士(第13回・1993年):生物物理・キラル化学(キラリティ識別機構の解明)
- 石井志保子 博士(第15回・1995年):代数幾何学(特異点論の世界的権威)
- 野崎京子 博士(第25回・2005年):有機合成化学(革新的高分子合成触媒の開発)
- 鳥居啓子 博士(第35回・2015年):植物生物学(気孔発生と細胞間シグナルの解明)
歴代の受賞者たちはその後、日本学士院賞の受賞や国際的な科学賞の栄誉に輝くなど、世界トップクラスのサイエンティストとして目覚ましい活躍を続けています。