彼女の人生を大きく変えたのは、言うまでもなく2014年後期のNHK連続テレビ小説『マッサン』でした。マッサン エリー役の選考は、国内外合わせて500人以上が参加した過酷なオーディションであり、日本語が全く話せない外国人女優が朝ドラの主役を務めるという、朝ドラ53年の歴史上で前代未聞の挑戦でした。
当時の報道やドキュメンタリー番組が記録している通り、来日当初の彼女は「おはようございます」「ありがとうございます」すらおぼつかない状態でした。台本はすべてローマ字に書き起こし、イントネーションを記号化して耳から音を丸暗記するという、常人離れした努力を重ねました。撮影現場の控え室では、プレッシャーとホームシックのあまり毎晩のように涙を流していたと、自著や特番インタビューでも率直に明かされています。
しかし、相手役の玉山鉄二をはじめとする日本のキャスト陣やスタッフの温かい支え、そして何より彼女自身の卓越した演技力によって、エリーというキャラクターに血を通わせました。ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝の妻リタをモデルにした「日本のウイスキー誕生を支えた献身的な外国人妻」の姿は、平均視聴率21.1%(関東地区・ビデオリサーチ調べ)という大ヒットを記録し、彼女は一躍国民的スターへと上り詰めたのです。
この『マッサン』での成功は、単なる一過性のブームにとどまらず、日本のテレビ界において「外国人俳優が単なるゲストではなく、ドラマの中心人物として機能する」という新たな扉を開く歴史的なマイルストーンとなりました。