インターネット上やSNSでは、時折『ブレーメンの音楽隊』に関する過激な怖い都市伝説が語られることがあります。「動物たちは旅の途中で力尽きて凍死しており、泥棒の家は死の間際に見せた幻覚だった」「泥棒を皆殺しにして死体を貪り食った」といった猟奇的な解釈です。
しかし、文献学的な見地から原典を精査すると、これらのグロテスクな説は後世のネットユーザーによる創作・誇張であり、グリム兄弟が収集したテクストにそのような記述は存在しません。ただし、都市伝説が生まれる下地となった「19世紀初頭のリアルな過酷さ」は原典の中に確実に刻まれています。
当時のドイツ農村部において、家畜は家族ではなく「労働力および食料」でした。筋力が衰えたロバは皮を剥がれて太鼓の革にされ、老いた猟犬は棍棒で殴り殺され、ネコは川に沈められ、オンドリは鍋に放り込まれる――これらは創作ではなく、当時の貧しい庶民の生活における日常的な経済行動でした。
また、動物たちが目指した自由ハンザ都市「ブレーメン」は、封建領主の支配を受けない自治都市であり、「都市の空気は人を自由にする(Stadtluft macht frei)」という法格言の通り、農奴や社会的弱者にとっての希望の地でした。しかし、その理想郷に辿り着く手前で「泥棒という非合法集団から実力行使で資産を奪い取り、自立する」という結末を選んだ点に、当時の民衆が抱いていた現実主義と、搾取する側(泥棒・領主)に対する痛烈な風刺が読み取れます。