ネット上のレシピを見渡すと、「半日じっくり漬け込む」という指示から「食べる直前に和えるだけ」という意見まで散見され、混乱を招いています。食品加工学の観点から下したポキ丼漬け込み時間の正解は、常温または冷蔵で「10分から15分」です。これ以上でもこれ以下でも、理想的なテクスチャーは手に入りません。
刺身に塩分が接触すると、浸透圧の作用によって細胞内の水分が外部へ引き出されます。5分未満の和え時間では、表面にタレが乗っているだけで魚の内部と味が一体化しません。一方で漬け込み時間が20分を超えると、魚の細胞から過剰な水分(自由水)が流出し、せっかくのタレが薄まって水っぽくなるばかりか、身のタンパク質が変性して弾力が失われ、パサついた食感に劣化してしまいます。
また、味付けに入る前の「下処理」が成否の8割を握っています。スーパーのパックに入った刺身は、ドリップ(魚の体液)と呼ばれる液体に浸かっています。このドリップこそが生臭さの主因であるトリメチルアミンの温床です。パックから取り出したマグロは、厚手のキッチンペーパーで包み、手のひらで軽く圧をかけて表面のドリップを徹底的に吸い取ってください。この「水分オフ」を怠ったままタレに漬けると、どれほど高級な調味料を使っても雑味の残る仕上がりになってしまいます。