池谷氏の名が広く世に知れ渡る大きなきっかけとなったのが、コピーライターの糸井重里氏との共著『海馬』である。記憶を司る小さな脳部位「海馬」の仕組みを、対談形式でみずみずしく紐解いたこの一作は、単なる専門書にとどまらず、文芸・学術の壁を超えた大ヒットを記録した。
最先端の科学知見を、誰の心にも届く魅力的な言葉で表現する。その稀有な才能は、まさに糸井氏とのダイナミックな対話によって覚醒したと言っても過言ではない。専門用語の山に埋もれがちな脳の面白さを一般読者に届けるスタイルは、この頃に確固たる骨格を作り上げたのだ。