「昔の事故の話は分かったが、今の歯医者で受けるフッ素塗布は本当に安全なのか?」という懸念に対しては、現在の医療システムと学会基準が明確な答えを出しています。
まず、現在の歯科医院で八王子のような悲劇が再発することは構造上あり得ません。1982年の事故を重く受け止めた厚生省(現・厚生労働省)は医薬品の管理規制を徹底的に強化しました。現代の小児歯科で使用されるフッ素製剤は、製薬メーカーが安全な濃度(通常9,000ppm=0.9%程度)にあらかじめ調整・パッキングした医療用医薬品のみが流通しており、個々の歯科医院が原材料の粉末や劇薬を院内で手作業調合する行為自体が完全に排除されています。
さらに、歯科医院で1回に塗布されるフッ素ゲルの量は通常1〜2ml程度です。この中に含まれるフッ素量は約9〜18mg程度にとどまり、幼児が処置中の薬剤を仮にすべて飲み込んでしまったとしても、先述した致死量(体重15kgで75mg以上)には到底届きません。実際の臨床現場ではバキュームで余剰な唾液や薬剤を吸引するため、体内に残る量はさらにごくわずかです。
日本の歯科界では、日本小児歯科学会、日本口腔衛生学会、日本歯科保存学会、日本老年歯科医学会の4学会が合同で「フッ化物利用(塗布・洗口・配合歯磨剤)に関する最新ガイドライン」を策定・更新しています。国際的なエビデンス(世界保健機関:WHO等の基準)とも整合性を取りながら、乳歯の萌出期から永久歯列期に至るまで、年齢と体重に応じた厳密な使用基準と安全マージンが設定されています。