『チキンライス』の歌詞に込められた最大の魅力は、過剰な装飾を排した松本人志の飾らない実体験の描写にあります。兵庫県尼崎市の長屋で育った松本の幼少期は、決して物質的に恵まれた環境ではありませんでした。クリスマスになっても高価なプレゼントは買えず、チラシを丸めた手作りのケーキで祝うような家庭環境だったことは、松本自身の著書や番組トークでも度然語られてきた有名なエピソードです。
歌詞の中核をなすフレーズ「チキンライスでいいや」という言葉には、子供心に親の苦しい懐事情を察し、高価なメニューをねだるのを躊躇した少年の切ない優しさが込められています。ファミレスやデパートの最上階にある大食堂に連れて行ってもらった特別な日、本当はもっと贅沢な料理が食べたかったかもしれない。それでも、親に無理をさせたくないという健気な配慮から口にした言葉が「チキンライス」でした。
さらに見逃せないのは、大人になった現在の主人公が「今なら高価なディナーも食べられるけれど、やっぱりチキンライスが好きだ」と誇らしげに語るラストの展開です。貧しかった過去を恥じるのではなく、貧乏だったからこそ培われた親子の絆や温もりを肯定するこのメッセージこそが、聴く者の心を深く揺さぶる理由となっています。