現在でこそ世界中で愛されるデザインだが、1960年代初頭までカナダには独自の公式国旗が存在しなかった。イギリスの国旗であるユニオンジャックを左上に配した「レッド・エンサイン」と呼ばれる商船旗が、事実上の国旗として長年使用されていたのである。
転機が訪れたのは1963年。当時の首相レスター・B・ピアソンが、英国の植民地色を払拭し、ケベック州を中心とするフランス系住民との対立を解消するため、新しい独自の国旗を制定すると公約した。これが後に「大国旗論争(Great Flag Debate)」と呼ばれる猛烈な政治的暴風雨の幕開けとなった。
提案された新しい旗に対して、英国派の保守党や復員軍人団体は激怒した。「歴史と伝統を捨てるのか」という罵声が飛び交い、カナダ議会は連日未明まで怒号が響く大混乱に陥った。連日、テレビ局CBCのニュースカメラがその荒れた議場の様子を全国の茶の間に届ける中、世論は完全に二分された。審議は半年以上にわたって空転し、国中が熱病にうなされたかのような緊張感に包まれた。