『幸福論』の誕生を語る上で欠かせないのが、ベーシストであり音楽プロデューサーの亀田誠治との出会いです。当時まだ無名に近かった亀田誠治と、デビューを控えた十代の椎名林檎。スタジオでのセッションを通じて二人は瞬く間に音楽的共鳴を果たしました。
音楽理論の観点から本作を紐解くと、コード進行には王道のカノン進行(I-V-VI-III-IV-I-IV-V)やIV-V-III-VI(いわゆる王道進行)のエッセンスが巧みに配置されています。しかし、随所に差し込まれるテンションノートやベースラインの大胆なアプローチによって、甘ったるいポップスに陥ることのない絶妙な緊張感が保たれています。亀田誠治の手腕は、彼女の持つ奔放なメロディラインをJ-POPのフォーマットへ見事に着地させました。
また、シングル盤のカップリングとして収録された「すべりだい」は、ファンの間で表題曲を凌ぐほどの支持を集める名曲です。日常の風景の中に潜む孤独やすれ違いを、ジャジーで気だるいアンニュイなコードワークに乗せて歌い上げたこの曲は、椎名林檎のソングライティングの底知れなさを世に見せつける結果となりました。