北朝鮮ウォッチャーの間で長年最大のミステリーとされているのが、「2010年生まれの長男」の存在と現在です。家父長制の権化ともいえる北朝鮮で、長男を差し置いて娘を前面に出すことに対し、専門家の間では3つの有力な仮説が議論されています。
第一の仮説は「エリート海外留学・徹底隠匿説」です。かつて金正恩氏自身も、10代の頃にスイス・ベルンの国際学校へ「パク・ウン」という偽名を使って極秘留学していました。後継者としての箔をつけるため、あるいは安全確保のために海外(ロシア、スイス、中国など)で高度な帝王教育を受けさせており、成人するまで一切の姿を公開しない戦略をとっているという見立てです。
第二の仮説は「身体的・精神的な健康不安説」です。かつてイギリス駐在北朝鮮公使を務め、脱北した太永浩(テ・ヨンホ)元議員らは「もし健康で聡明な長男が存在するならば、儒教的観念が根強い北朝鮮において娘をわざわざ後継者に仕立てる合理的理由が薄い」と指摘しています。表舞台に出せない重大な身体的理由があるため、次子であるジュエ氏に白羽の矢が立ったという説です。
そして第三の仮説は「そもそも長男など存在しない(第一子も女児)説」です。韓国情報機関も初期の「男児出産」情報を再検証しており、第一子は女児であったか、あるいは長男説そのものが誤報であった可能性も排除できないと見直しを進めています。いずれのシナリオであっても、ジュエ氏が現在受けている特別待遇が「替えの利かない立場」であることを如実に物語っています。