池の北西のほとりに静かに佇む数奇屋風の木造建築が「古今伝授の間」だ。一見すると落ち着いた茶室の佇まいだが、日本中世文学の歴史において極めて重要な舞台となった由緒を持つ。
戦国時代屈指の文化人として知られる細川幽斎(藤孝)が、1600(慶長5)年の丹後田辺城の戦いにおいて、八条宮智仁親王に和歌の秘伝書『古今和歌集』の奥義を伝授した場所とされる。歌道の血脈が絶えることを恐れた後陽成天皇が勅命を出して開城を促したという逸話は有名だ。もとは京都御所にあったこの建物は、大正時代に細川家ゆかりの地である熊本へと移築された。
現在、この古今伝授の間では、池と富士の築山を望みながら熊本の銘菓「十六夜」や「加勢以多」とともに抹茶をいただく呈茶体験が人気を集めている。畳の香りと風情ある軒先、そして澄んだ水音に耳を傾けるひとときは、旅のハイライトにふさわしい贅沢な時間だ。