スーパー玉出を語る上で避けて通れないのが、ネット空間で長年まことしやかに囁かれてきた様々な都市伝説と、スーパー玉出創業者である前田託次氏の存在です。ここでは取材に基づくファクトチェックを行い、誤った認識を正していきます。
ネット掲示板やSNSでは長年、「玉出のバックには反社会的勢力がいるのではないか」「激安の理由は産地偽装や消費期限切れの横流し品だからだ」といった極端な言説が散見されました。しかし、これらは大半が誇張や偏見に基づいた誤解です。
実態としての激安の源泉は、前田氏の規格外の商人魂にありました。現金決済を武器に食品メーカーの余剰在庫やパッケージ変更前の旧品を一括で買い叩き、自前の物流網で即座に店頭に並べる「現金買い・バッタ屋仕入れ」のスキームを徹底していたのです。また、当時の日雇い労働者が多かった街の事情に合わせ、1円でも安くエネルギー源を提供しようとした、ある種の強烈な現場主義が生み出した価格破壊でした。
しかし、その強烈なワンマン体制はコンプライアンスの軽視という致命的な影を落とすことになります。2010年代以降、外国人留学生を法定時間を超えて働かせたとする出入国管理法違反(不法就労助長)容疑での書類送検や、暴力団幹部が実質経営する飲食店から収益を受け取っていたとする組織犯罪処罰法違反容疑での前田氏の逮捕(後に不起訴処分)など、相次ぐ法令違反疑惑がメディアを賑わせました。
これらのスキャンダルによって企業イメージは失墜し、銀行取引や大手メーカーとの直接取引に支障をきたしたことが、結果として2018年の事業売却(買収)へとつながりました。前田氏が一代で築き上げた「激安の王国」は、昭和・平成のアンダーグラウンドな熱気の中でしか成立し得ない、法治国家の規制強化とともに退場を余儀なくされた徒花(あだばな)だったと言えます。