医療現場の受診動機として最も多く、同時に最も危険な誤解を生みやすいのが「血便」です。排便時に出血を確認した人の多くが「いつもの痔だろう」と自己判断し、専門医への受診を数か月から1年以上遅らせてしまう事例が後を絶ちません。
痔(特に内痔核や裂肛)による出血と、大腸がんによる出血には病態生理学的な違いが存在します。痔による出血は、肛門付近の血管破裂によるものであるため、鮮やかな真っ赤な血液(鮮紅色)が便器の水に広がったり、ペーパーに付着したりするのが特徴です。
一方、大腸がんによる出血は、腫瘍表面のびらんからじわじわと出血するため、便と混ざり合って暗赤色(どす黒い赤色)に変色したり、ゼリー状の粘液と混ざった「粘血便」として排出されるケースが目立ちます。さらに、盲腸や上行結腸など肛門から遠い右側結腸にがんがある場合、血液が腸内細菌によって酸化され、タールのような真っ黒な便(タール便)となって現れることがあります。
ただし、「鮮血だから痔に違いない」という判断は禁物です。直腸がんのように肛門のすぐ手前に腫瘍が存在する場合、鮮紅色の血液が付着することもあります。また、痔を患っている人が同時に大腸がんを発症しているケースも決して珍しくありません。出血の原因を肉眼だけで特定することは不可能なため、一度でも血便を確認した場合は消化器内科での精査が不可欠です。