それまでの大河ドラマが描いてきた西郷隆盛は、どこか完成された「器の大きな指導者」だった。だが本作が提示したのは、あまりに傷つきやすく、感情の堤防がすぐに決壊してしまう未完の男だ。
理不尽に命を奪われていく農民のために声を上げて泣きじゃくり、牢獄の暗闇で絶望に身を悶えさせる。鈴木が演じた吉之助は、強さゆえに人を率いたのではない。あまりの共感性の高さゆえに、民衆の悲鳴を我が事として背負い込んでしまった男だった。
「敬天愛人」という言葉の裏側に潜む、生々しいまでの他者への執着と苦悩。歴史の教科書が切り落としてきた感情のグラデーションを、彼は全身全霊の芝居で拾い集めた。