成人の溶連菌において最も警鐘を鳴らすべき事実は、「自前の免疫で痛みが引いたとしても、菌が死滅したわけではない」という点です。インターネット上では「放っておけば1週間程度で喉の痛みは引く」といった無責任な情報も見受けられますが、自然治癒が危険な決定的な理由は、菌が体内に潜伏し続けた結果として発症する非化膿性合併症(後遺症)の存在にあります。
溶連菌が引き起こす合併症の中で、成人が最も警戒すべき疾患は次の2つです。
1. 急性糸球体腎炎の合併症リスク
感染から約1〜3週間の潜伏・無症状期間を経た後に、腎臓のフィルター機能を担う糸球体に免疫複合体が沈着し、炎症を起こす疾患です。主な兆候は、紅茶やコーラのような赤褐色の血尿、顔面や足の強いむくみ(浮腫)、そして急激な血圧上昇です。成人で発症した場合、小児よりも慢性腎不全へと移行する確率が高く、最悪の場合は生涯にわたる透析治療が必要になる事例も報告されています。
2. リウマチ熱の予防と真相
溶連菌の菌体成分に対して作られた自らの抗体が、心臓の筋肉や弁、関節、中枢神経などの自己組織を誤って攻撃してしまう自己免疫疾患です。特に関節の激痛や心筋炎、心内膜炎を引き起こし、一度破壊された心臓の弁は元に戻らず、将来的に不可逆的な「心臓弁膜症」を残すことになります。リウマチ熱の予防には、発症から9日以内に適切な抗生物質を開始することが医学的に立証されています。
これらの合併症を完全に遮断するために、医療機関ではアモキシシリンなどのペニシリン系抗生物質を原則として10日間(薬剤によっては7〜14日間)処方します。ここで多くの患者が犯してしまう致命的な過ちが、「内服して2〜3日で喉の痛みが消えたから薬をやめる」という自己中断です。症状が消失した段階では、喉の表面の菌が減っただけであり、組織の深部にはまだ病原菌が残存しています。処方された抗生物質の服用と治療期間を医師の指示通り最後まで完遂することだけが、将来の腎不全や心臓病を未然に防ぐ唯一の防波堤となります。