各種レビューサイトやSNS上での評判・口コミを精査すると、驚くべき高評価が連なる一方で、ごく稀に「つゆが塩辛すぎて驚いた」「思っていた更科と違った」という戸惑いの声も見受けられます。この評価のギャップは一体どこから生まれるのでしょうか。
現場観察と味覚構造を分析すると、その原因は「江戸前蕎麦のつゆに対する認識の違い」にあります。現代のチェーン店や一般的な蕎麦店では、誰にでも親しみやすいよう、みりんや砂糖を多めに利かせた甘口でまろやかなつゆが主流です。しかし、布恒更科のつゆは、江戸時代から続く「もりつゆ」の原点に忠実な、妥協のないキレを持つ辛口です。
蕎麦全体をどっぷりとつゆに浸してしまうと、当然ながら醤油とだしの濃厚さが勝ってしまい、「塩辛い」という印象だけが残ってしまいます。一方で、箸でつまんだ蕎麦の下3分の1、あるいは先端だけをつゆにちょんと浸して一気に啜ることで、蕎麦の香りとつゆのコクが口の中で完璧な黄金比を形成します。この「食べ手の所作」によって、評価が180度変わる点こそが、布恒更科が“通を試す店”と言われる所以です。