故意の飛び込みではなく、認知症の高齢者が誤って線路に立ち入り電車にはねられた事故については、司法判断に明確な転換点が訪れました。
注目されたのが、愛知県大府市で2007年に発生した事故を巡る2016年の最高裁判決(JR東海・認知症徘徊列車事故訴訟)です。線路に立ち入った認知症男性の遺族に対し、JR東海が約720万円の損害賠償を求めたこの裁判で、最高裁は「同居の妻や長男は監督義務者に該当しない」として鉄道会社側の請求を全面的に棄却しました。
最高裁は、家族が監督義務を負うかどうかについて以下の総合的な判断基準を示しています。
・本人の心身の状態や介護度
・同居の有無や日頃の生活状況
・介護体制の実態や客観的な見守りの難しさ
この判例以降、認知症患者による鉄道人身事故において、家族へ安易に監督義務者責任を問うことは極めて困難になりました。高齢化社会における重大な司法判断として、その後の実務に大きな影響を与えています。