一般的に、これほど大規模な展示室や動植物の飼育温室を備えた施設であれば、一般大人800円〜1,500円前後の入場料を設定するのが通例です。しかし、東京農業大学「食と農」の博物館は開館以来、入館料無料を貫いています。関係者へのヒアリングおよび大学公式の発表資料から、その明確な3つの理由が浮かび上がってきます。
第1の理由は、「大学の知的財産および研究成果の社会還元」という建学の精神に基づく基本方針です。東京農業大学は1891年の創立以来、実学主義を掲げて日本の農業・食品産業を支えてきました。日頃の研究データや収集された貴重な学術標本を広く一般市民へ公開し、知的好奇心を満たす生涯学習の場を提供することが、学校法人としての公益的使命と定義されています。
第2の理由は、次世代を担う子どもたちへの「食育・農育」の推進です。都市部では土や農作物、生きた動植物に触れる機会が著しく減少しています。敷居を極限まで下げることで、地域のファミリーや小中学生が日常的に立ち寄り、食料生産の尊さや生物多様性の重要性を体感できる環境を整備しています。
第3の理由は、大学・同窓ネットワークによる強固なサポート体制です。展示されている日本酒コレクションをはじめ、多くの展示品は全国の卒業生ネットワークや関連学術機関(一般財団法人進化生物学研究所など)との緊密な連携によって集約・維持されています。営利を目的としない教育機関だからこそ実現できる運営モデルといえます。