ネット上の言説や旧来の精神論において、いまなお根強く残っているのが「働いてしまえば慣れる」「ショック療法で荒療治をすれば恐怖は克服できる」という誤解です。しかし、労働心理学の現場において、この手法は極めて危険な逆効果をもたらすことが判明しています。
防衛反応が過敏になっている状態で過酷な労働環境に飛び込むと、脳は恐怖を再学習し、トラウマをより強固に固定化してしまいます。その結果、適応障害から重度のうつ病へと移行し、回復までに何年も要する二次障害を引き起こす事例が後を絶ちません。
もうひとつの盲点は、「仕事=生きがいでなければならない」「正社員としてフルタイムで勤め上げることだけが一人前」という単一的な労働観への固執です。家族や社会から刷り込まれた規範意識と、自身の心身の限界との間で心理的バウンダリー(境界線)が崩壊し、「期待に応えられない自分には生きる価値がない」という自責の念を生み出しています。
現代の労働市場は、正社員だけでなく、業務委託、契約社員、在宅パート、スポットワークなど、多様なグラデーションが存在します。「恐怖を感じる環境から距離を置くこと」は決して逃避ではなく、持続可能な生き方を見つけるための「極めて合理的なリスクヘッジ」であると認識を改めることが肝要です。