「あべこべの星」は痛快なギャグエピソードであると同時に、視聴者の心に得体の知れない恐怖を残す作品としても知られています。ネット上では「子どもの頃に見てトラウマになった」という感想が定期的にバズを生み出します。
その恐怖の正体は、藤子・F・不二雄先生の真骨頂である「すこし・ふしぎ(SF)」の裏側に潜むディストピア感とドッペルゲンガー現象にあります。
自分と全く同じ顔、同じ名前の人間が目の前に存在し、自分とは真逆の人生を歩んでいるというシチュエーションは、心理学的に強い自我の揺らぎを引き起こします。特に作中、あべこべ星ののび太(=大天才で周囲の期待を一身に背負い、疲れ果てている少年)と地球ののび太が対面するシーンは、どこか奇妙な静けさと冷たさを漂わせています。
さらに、「もし元の地球に帰れなくなったらどうなるのか」「自分が信じてきた世界のルールや正しさは、所詮ローカルな思い込みに過ぎないのではないか」という根源的な不安を突きつけられる構成になっており、これが幼少期の読者に深い不気味さを植え付けたのです。